石けん学のすすめ       Anri krand くらんど

4.正統と伝統の、石けん製造法

4-1.窯焚けん化・塩析法(熱製法)の石けん
4-2.枠練と機械練
4-3.水焚法(焚込法)のカリ石けん
4-4.冷製法石けん、ハンドクラフトからホームメイドまで
4ー5.中和法(脂肪酸中和法)の得失>

* 4-1.窯焚けん化・塩析法(熱製法)の石けん

 子どもから「蝶はなぜキレイなの」というような質問があったら、あなたはどう答えるでしょうか。人によって千差万別でしょうが、案外「自然のキマリ(摂理)」というような答え方をするのではないでしょうか。子どもには分からないでしょう。解答の1つに「蝶が自分からキレイになろうと望んだからさ」という答えがあります。「長くつ下のピッピ」なら言いそうですが、まちがっても教訓などではありません。子どもと子どもの本(児童文学)の世界は、限られた大人の世界の何倍も深くて広大です。

 「蝶が自分からキレイになろうと望んだから」という解答を学問の立場から言った人が、若き日の生物学者今西錦司です。ダーウィンの進化論は、突然変異と自然淘汰からできていますが、今西進化論は、棲み分けと種の主体性からできています。そして美も芸術も進化の1つであり、(個のムレである)種は、進化したいときに進化するのだといっています。「そもそも生物が食欲とか性欲とかいわゆる本能生活以外に生活はないもののように考えるのはまちがいである。花はなぜ美しいのか、蝶はなぜきれいなのか(略)。そこにいわば生物の世界における芸術といったようなものが考えられはしないであろうか。そこにいわば生物の世界における文化といったものがあるのではなかろうか」 注)今西錦司「生物の世界(1941)」
 

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  石けんとくに純石けんのつくりかたは、醤油・酒・酢のそれと比べられます。「鹸化」と「発酵」との比較です。共通点は、伝統の製法を守ってつくられることですが、「熟練の手で窯を焚く」といった行為そのものに、本質的な類似点があります。それだけに「巧の技」の維持と継承が必須になります。技術のみならず、かたくなな精神も、時代をこえて伝承されなければなりません。家内制手工業という旧弊なシステムが、現在だから有効に機能するという見本のようなものです。

 さて、純良な純石けんは、「窯焚けん化・塩析法」という伝統の製法でつくられています。純石けん分98%・99%という表示のある純石けん(固形ソーダ石けん)がこれです。うち99%以上のもので現在市場に出ているのは、わずか1桁くらいのようです。なかに事実上99.9%といえる石けんもあります。世界に誇っていい高品質な純石けんですが、大手の洗剤・化粧品けんメーカーの化粧石けんにくらべると、市場の需要と消費量はわずかなものです。供給の方はまだまだ余力があるようです。

 「窯焚けん化・塩析法」は、単に「窯焚き」ともいい「石けん煮」「石けん焚き」ともいいます。終始煮沸温度(100℃)で作業を行なうため「煮沸法」といい、常温で作業する冷製法と比べるため「熱製法」ともいいます。塩析を行って不純物を分離することから「塩析法」ともいっています。言いかたが違うだけで、すべて1つの製法です。最上の品質を保証する正統なソーダ石けん(硬石けん)をつくるには、この製法によらなければなりません。上等まででよく最上をもとめない場合は、塩析の1部を端折ることがあります。仕込から乾燥(熟成)まで、14〜15日位かけるのが通例です。

<けん化 saponification>

 仕込み油脂を全量窯に入れ、煮沸温度(100℃)に溶融してから、当量の水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)の1/3相当の希釈液を注ぎます。煮沸をつづけ、機械的な攪袢を行い、粘度が高まってから、さらに水酸化ナトリウム1/3相当量を注ぎます。適時温度を調節し、場合によって冷水を加えて冷やします。残りの水酸化ナトリウム1/3相当を濃厚液として徐々に加えて煮沸をつづけ、粘調になりすぎた場合は食塩を加えて粘度を抑えます。その先でけん化が終了します。けん化後のこの石けんを膠 soap paste といいます。(1日目)

<塩析 salting-out>不純物の除去

 翌日、石けん膠をふたたび煮沸・攪袢しながら、食塩の飽和液を徐々に加えます。石けん膠が不透明になり粘度を減じ、純石けんが上部に分離します。完全に不透明な粒になったら(塩析が十分)、加熱と攪袢を止め、窯に蓋をして1夜靜置します。下部の液中は、水酸化ナトリウム・炭酸ナトリウム(炭酸ソーダ)・塩化ナトリウム・グリセリンなどの不純物です。(2日目)

<洗浄 washing>有色物類とグリセリンの除去

 水洗い washinng といいます。1夜靜置後の石けんは、完全に上部に析出します。下部の廃液を捨ててから、水をくわえて煮沸、再び石けん膠になったものを、食塩水で何度も洗います。そのつど分離する下部を抜き、石けん分を純化します。(3日目)

<仕上煮 boiling strength>未反応油脂の除去

 未けん化油脂の完全なけん化が目的です。水をくわえて再び煮沸し、石けんが膠状になったら、濃厚な水酸化ナトリウム液を徐々に継続的にくわえながら加熱をつづけます。完璧をのぞむ場合は、過剰なアルカリで4〜6時間煮沸してけん化完了してから、さらに4〜6時間加熱をつづけます。これで未反応油脂が皆無という状態になります。のち靜置して下部の廃液を抜きます。廃液の中味は、水酸化ナトリウム・炭酸ナトリウム・塩化ナトリウム・グリセリンです。(4日目)

<仕上塩析 fitting>遊離アルカリの除去

 適量の水をくわえて加熱攪袢し、石けん膠の状態に戻ったら、靜置してのち下部の廃液を下ろします。さらに食塩水をくわえて仕上塩析を数度くりかえします。遊離アルカリが痕跡の状態になります。(5日目)

<靜置 settling>静置けん化

 最低でも24時間、品質を求めるなら48時間、靜置します。窯の大きさや輻射熱、また温度低下の緩やかなことなどが、仕上に影響をあたえます。すべての不純物・夾雑物は、静置けん化により極度に純化され、石けん分以外は痕跡も止まりません。以上が窯中での工程です。(6〜7日目)

  以後、釜から出して、冷却から切断・乾燥(熟成)・包装などの工程があります。枠練か機械練のどちらかの方法で違いがありますが、仕込みから延べ14日〜15日の工程です。
 仕上塩析・静置を終えた時点で、未反応油脂・遊離脂肪酸・遊離アルカリ・その他の不純物・夾雑物はすべて除去されています。事実上水分30%前後、純石けん70%、純石けんのうち純石けん分はすでに99.9%くらいになっています。残余の0.01%〜0.09%くらいは、油脂由来の不けん化物、ステロール(コレステロール)の痕跡のみです。除去の極限といえます。

 最終工程の静置にちなんで、静置石けん Settled soapといわれますが、石けん製造法のなかでもっとも不純物が少ないため、とくに精良石けん Neat soap、また、純正石けん Genuine soap ともいわれます。表記すると99.9%になりますが、99.89%を割る可能性を勘案して99%と表示します。表示に当たっては、該当する県工業技術センターに「JIS 石けん試験法」による試験を依頼し、以下のような「成分表」の発行を受け、必要に応じて公表もします。純石けん分99%と表記する純石けんが、信頼できる所以です。

成分表 ○○県工業技術センター 199*年○月○日 ---------------------------------------------- 分析番号 第○ー○○○○号 ---------------------------------------------- 品名 ○○固形石けん○○○ (化粧・浴用石けん) ---------------------------------------------- 水分(加熱減量法) 24.0% 純石けん分★ 99% 遊離アルカリ★ 0.0% 石油エーテル可溶分★ 0.1% アルコール不溶分★ 0.0% 水不溶分★ 0.0% ---------------------------------------------- 注)★:乾燥資料に対する% 蛍光増白剤・りん酸塩・ABS・LAS検出せず ・・・・紫外線分光による ----------------------------------------------

 上記の表で「石油エーテル可溶分」というのが、油脂・脂肪酸などが検出される項目で、先の油脂由来の不けん化物ステロールの痕跡が認められます。

* 4-2.枠練と機械練

 枠練と機械練は、石けんの仕上げの段階で分れる2種類の製法のことで、仕上りの違い、体裁・使用感などがこれで決まってきます。油脂と水酸化ナトリウムから「窯焚きけん化・塩析法」という製法でつくられる純良なソーダ石けんの、水洗い・仕上煮・仕上塩析・靜置という最終工程をおえたものは、静置石けん settled soap といい、その内容から精良石けん(ニートソープ neat soap)とか、純正石けん(ジェニュインソープ genuine soap)といわれます。まだ窯中にありますが、技術の確かなものは、この時点ですでに純石けん(純石けん分99%相当)70%、水分30%くらいのものになっています。

 ちなみに、塩析まではして、その後の水洗い・仕上煮・仕上塩析・静置をしない石けんは、塩析石けんのなかでもとくに含核石けん Curd soap といっています。どちらかというと塩類などの不純物が多く、色調も不良で、固く脆い素地石けん Soap base になります。廃油石けんの塩析をするものは、丁度この時点の塩析石けんです。また、水洗い・仕上塩析・静置をする静置石けんも、仕上塩析fittingの粗さと細かさのとりかたに段階があり、品質が左右されるほか、窯の大きさも影響を与えるといい、素地石けんにいくつかのクラスが存在します。

 まだ温かいうちの素地石けんを、大きな木枠(鉄枠)に注ぎ込んで、自然冷却をさせるのが枠練石けんです。それを数日後にとり降ろして、ピアノ線を組んだ裁断機に通し固状に細断、専用の棚へ納めて、さらに何日か自然乾燥させます。きわめてシンプルな製法ですが、枠冷却・棚乾燥に日数がかかります。
 機械練石けんは、素地石けんから、冷却・乾燥・細断・乾燥・混和・練込・圧出・切断・型打・乾燥という工程をとります。途中はいずれも急速冷却・急速乾燥させますが、主工程は、素地を細断・乾燥したチップ(片)を均一に混和・練込する作業です。捏練(ねつれん milling)といっています。最後に纏まりと美観につながる「型打」という工程が入っているのも特長です。手数がかかりますが急速化しているために日程はそうおしません。

 枠練石けんは、石けん分子の結晶化が進み、結晶そのものも大きく、水中で膨潤や溶け崩れがすくない質の固い石けんとなります。亀裂性がなく、摩擦による溶解度が小さいため、消耗度が遅いという利点があります。つまり長持ちしますが、水分が多いため変形が起きることもあります。ふつう型打がないため、表面・形状などは機械練にくらべて滑らかではありません。機械練石けんは、乾燥度が高く(水分が少なく)、結晶は小さいのですが、粒子がそろって内容は緊密になり、なにより美しい外観を呈します。油脂の組成によっては磨いたような様子になります.膨潤と溶け崩れが起りやすく、亀裂もできやすいといわれますが、工程完了後、枠練並みによく熟成すれば、それらの欠点も補われるといいます。

 体感上の違いは、石けんの結晶の大きさの違い、水分の違いからくるもので、溶けかたの差違にでてきます。いずれも完成度は高いものですから、どちらがいいかという問題ではありません。感覚上の好みで選択することになります。石けんの規格に関係するため、JIS-K-3301 「化粧石けん Toilet Soaps」では、化粧石けんを2種類に分けています。枠練は水分28%以下、機械練は水分16%以下と、製法と水分で決められています。昔は枠練=浴用石けん、機械練=化粧石けん、という誤った分け方をしたこともあり、今でもそう説明することもありますが、現在その区別はありません。どちらも顔・体につかう化粧・浴用石けんで、JIS規格の「化粧石けん」も「化粧・浴用」が用途です。

* 4-3.水焚法(焚込法)のカリ石けん

 窯焚けん化・塩析法が、ソーダ石けん製造法の正統といわれるのは、塩析以降の工程が精練のためであり、その精練の先に、妥協のない純良な石けんがつくりだされるからです。精良石けん neat soap、純正石けん genuine soapといわれる由縁です。それを承知の上で、窯焚けん化の段階で作業をとどめ、塩析をあえてしないという製法があります。水焚法や冷製法というものがそれにあたります。水焚法は、終始煮沸温度(100℃)で作業する、窯焚けん化法の1種です。塩析を行なわないため、原料は全量すべて石けんに含まれて仕上ります。原料の精製度が、仕上りの品質に直結します。

 原料と水以外のもの、たとえば塩析の塩を使用しないために、「水焚法」といいます。「焚込み石けん」ともいいます。煮沸温度ではなく、75℃〜80℃で焚く場合は、半煮沸法といいますが、大きな変わりはなく水焚法と区別していません。塩析を行わないことから、過不足のない完全なけん化が求められます。そのため石けんの質的レベルは、技量と比例することになります。塩析法に比べ含水量が多いため、抱水石けん・含水石けんなどと呼ばれたこともあります。できた素地石けんは、枠練石けんに仕上げます。

<.けん化 saponification>

 仕込油を100℃(または75℃〜80℃)に溶融し、最初は比較的希釈な苛性ソーダを注加して加熱、攪袢します。しだいにけん化が始りますが、進行をみながら徐々に濃厚な苛性ソーダを加えていき、適量をくわえ終わってから、さらに数時間加熱をつづけながら、けん化の完全を待ちます。けん化の途中、粘調になりすぎた場合は、わずかに食塩を加えて粘度を抑えることもあります。

<.靜置 settling>

 けん化の終わった石けん膠 soap pasteを窯中で靜置しますが、水焚法の場合は数時間くらいです。石けん膠の上部に浮いた泡を抜いてから、汲み出して枠中(鉄枠・木枠)に流し込みます。そこからは窯外、枠練の工程です。

 ちなみに水焚法(および半煮沸法)は、現在、ソーダ石けん(硬石けん)にはほとんど用いられません(塩析を行わない場合のソーダ石けんは、冷製法がよく用いられます)。 水焚法は廃油石けんにつかわれるほか、とくにカリ石けん(軟石けん)に用いられ、カリ石けん(軟固形石けん・液体石けん)の定法となっています。オリジナルは軟固形(透明性ハチミツ様軟膏体)ですが、現在はほとんど液体石けんにつくります。けん化までの製法はかわりませんが、静置の前に、粘度の調整に塩化カリを加え、清澄のために透明剤(グリセリン・糖・アルコール)を加えて攪袢、さらに精製水で希釈して、冷蔵静置した後、濾過したものが液体石けんになります。

* 4-4.冷製法石けん、ハンドクラフトからホームメイドまで

 冷製法は水焚法と同じく、油脂と当量の苛性ソーダからけん化して塩析は行いません。原料も全量含まれて仕上りますから、原料の精製度には注意が必要です。石けんの質の維持がなにより問題で、完全なけん化が求められます。けん化をみきわめる訓練を要します。すべて枠練石けんとなりますが、とくにソーダ石けん(硬石けん)の製造につかわれ、カリ石けん(軟石けん)や廃油石けんでは行われません。油脂を溶融するときだけ熱を加えますが、以外はまったく熱を加えないため冷製法の名があります。

<.けん化 saponification>

 仕込油を適度に熱して溶融して枠中(木枠など)に濾過します。40〜60℃くらいに冷却した後、計算よりわずかに過剰な苛性ソーダの濃厚液を、小分けせず全量注加し、よく攪袢します。その間いっさい加熱はせず、自然の熱にまかせますが、内容が粘調な石けん膠となるのを待ち、熱の放散を防ぐため布などできちんと覆います。冷製法のうち冷けん法という方法があり、これは、まったく常温のまま油脂にアルカリを加え、後よく攪袢することでけん化を進行させます。

<.靜置 settling>

 布などで覆った石けん膠 soap pasteは、十分な保温のまま2〜3日靜置します。とくに枠から出さない(そのまま枠練)靜置の間に、自然の反応熱によるけん化が進行します。「後けん化」といっています。「後けん化」が完全であると、品質はよくなり、未反応油脂(中性脂肪)が除かれて、わずかに過剰なアルカリが残存するだけになります。

 冷製法の正統なものは、現在もいくつか市場にでています。クイーン・オブ・ソープといわれたカスティール石けんCastile Soapsの1部がそうです。オリーブオイルのみ、またはオリーブオイルとタロー(牛脂)・ラード(豚脂)の組合せでつくられています。また、ココナッツ油石けんも、単体油脂のものが冷製法でつくられています。精緻なものを求めなければ、冷製法はなにより簡便なため、先のように、世界中のハンドメイド(手づくり)石けんの主流になっています。ハンドクラフト(手づくり工場)とハンド(ホーム)メイド(家庭手づくり)の両方がありますが、どちらも硬水地域(ヨーロッパなど)では流行らず、軟水地域が少なくないアメリカでは繁栄しています。

 ハンドメイドでは、廃油石けん(塩析石けん・焚込石けん)が主流だった日本にも、最近、アメリカ式のハンドメイド石けんが入ってきています、アメリカ式は、わりと単純化された冷製法ですが、アメリカ式の「改式」である「日本式ハンドメイド石けん」は、日本人の手になり、さらにシンプルになった冷製法です。アルカリを過小に処方することで、未反応油脂を過剰に残すという、「原料(油脂)過脂肪石けん」というべきものです。レシピをみていると、日本の文化の本質を髣髴とするようで、別の興味が惹かれます。日本の文化は、どんなものでも、外からそのままのかたちで導入することはありません。基本的に簡略化し、単純化し、純粋化してから受入れます。そのままのかたちのものは、いちど受入れても定着しません。

* 4ー5.中和法(脂肪酸中和法)の得失

 油脂を加水分解すると脂肪酸とグリセリンが分離生成されます。グリセリンは精製されて各種用途に用いられますが、現在でも市場のグリセリンの大半は、油脂の加水分解によってつくられています。脂肪酸とアルカリの中和反応による石けん製造法は、手のかけかたでかなりの相違がありますが、「中和法 neutralization process」といって一括されています。油脂から焚く石けんの製造法を「けん化」というのに対し、脂肪酸からつくるものを「中和」といいますが、かならずしも厳密な区分ではありません。

 「けん化 saponificsation」の実際的な意味は、油脂にしろ脂肪酸にしろ、「脂肪酸アルカリ塩(石けんの正式名称)」をつくる工程そのものを指します。「窯焚き」すなわち「けん化」ですから、saponificsation は、本来油脂、脂肪酸を問いません。水酸化ナトリウムでなく、安価な炭酸ナトリウムと脂肪酸からつくる方法は、「炭酸塩けん化法 carbonate saponification」ともいわれました。脂肪酸からつくる石けん膠をなんども塩析する石けん製造法も知られています。ただ、とくに断らないかぎりは、「けん化法」は油脂から焚くもので、脂肪酸からつくるものは、窯で焚いても「中和法」というのが一般的です。

 窯焚きけん化法との本質的な違いですが、窯焚きけん化が油脂の全量にアルカリを少量づつ加えていくという手順に対し、脂肪酸中和法はアルカリの全量を先に窯に入れて溶融し、後、脂肪酸を小分けに加えていきます。つまりけん化法と油脂・アルカリを入れる順序が違います。

 完全な中和が行われているかは、へらですくって跡のひきかたでみ極めるなど、けん化法と基本的に同じです。ただ油脂から焚くものに比べて、脂肪酸からのものは、かならず柔らかく仕上がるといわれています。石けんの法則の1つですが、理由ははっきりしていません。また脂肪酸中和法は、窯焚けん化法より品質が劣るといわれています。これは塩析工程を省略するためですが、けん化が完全なものなら決定的な相違にはなりません。けん化のみきわめにバラツキがあり、不十分なものが出る場合には、遊離脂肪酸・遊離アルカリが残存し、仕上りの品質がおちることがあります。

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